冲方丁「12人の死にたい子どもたち」のネタバレ含む感想

それでは、感想、まいりたいと思います。

もう一言です。

期待と大ハズレ!

これにつきます。「期待ハズレ」ではないところにご注意ください。

さすが天地明察やマルドゥックスクランブルであれだけ楽しませてくださった冲方さんの小説です。楽しくないはずはありません。面白くないはずはないのです。13番目の少年がなぜ、自殺場所として指定された廃病院にいたのか。彼は自分の意志でやってきたのか?その謎をめぐる12人の少年少女の議論(推理)は読みごたえがあり、とくに探偵役(という役柄があるわけではないのですが)の少年の推理は、複雑な時系列や病院の入り組んだ構造、それぞれの登場人物の動きを快刀乱麻というべき推理力で推理、説明してくれますし、その謎ときの伏線もしっかりと読者にわかる形で丁寧にはられているので(私には無理でしたが)賢明な読者の方であれば、終盤近くまで読めば結末は推理できたのではないでしょうか。

でも期待と大外れだったんです。

なぜか。それはですね。これも一言で言えるんですが、私の不満と疑問はただ一つ!

Contents

watabokuさんが描いた表紙の彼女(彼)は誰??

ということなのです。実は、読む前に、私はこのイラストレーターさんを、綾辻行人さんのAnotherと同じ方だと勝手に思っていたのです。(本当は遠田志帆さんという全く別の方なのですが)そして、その連想で、非常にミステリアスな物語を想像しており、この13番目の少年だか少女の死体(仮)がもっと様々な謎を内包し、彼(彼女)によって、絶対に解き明かせない、かつ不可思議な状況を作り出されることで、12人の少年少女が戸惑い、その謎を懸命に追うことによって、彼(彼女)が何者なのか、そしてなぜこの廃病院で一人静かに横たわっているのか、ということが解き明かされるのだろう、そしてそこにはちょっとホラー的な要素も混ぜ合わされつつ、。この13番目の子どもが、物言わぬ語り部として物語の中心に君臨するのだろう、と勝手に思っていたのですわ。

このwatabokuさんの表紙にあるように、力強い意志をもって、しかし、どこか現実離れした魅力をもって、死してなお立ち現れてくるのだろうと。

しかし、そんなことは実は全然なく。

物語は結構プリミティブに、この人なんか死んでるみたいだけど、どうなの?あれ、そういえばみんな入ってくるときにいろんな不自然なことあったよね(あかないはずの自動ドアが開くようになっていた、変な物音がした、スニーカーが女子トイレに片方だけ落ちてたよね、エレベーターもなんか止められてたし)とかそういう事象を丁寧につなぎ合わせていって、じゃあ協力者がいたんじゃないの?それって一人じゃできないよね、じゃあ、誰かが嘘ついているはずだよ、といったまっとうな推論を組み手てて、13番目の闖入をほう助したメンバーを当てていく、というまっとうな推理ゲームだったのです。

12人シリーズ?を踏襲した展開は見事

もちろん、12人の怒れる男や12人のやさしい日本人のように、最初は圧倒的にみんな「13番目どうでもいいから死のうぜ」だった多数派の意見が一人の疑義により、一人、また一人と話し合いを継続していくようにもっていく展開の妙や、12人を特徴だて、それぞれにトラウマや課題を背負わせてかき分けていく冲方さんの筆力には脱帽しかないわけです。

しかし、探偵役の彼も、そして13番目を連れてきたあの娘も、偶然見つけた13番目を死んでいると思い込んで、もしくはすぐ死ぬものと早合点して(そう彼はまだ死んでなかった。そして物語中でも死にません。wikiのあらすじにも眠りについていた、とあるように、この13番目は別に死んでなかったのです。私の勘違いでした。はい)集団自殺が行われる地下に運んだ彼と彼女も、誰を見渡しても、表紙の彼女(彼)に該当するだけの魅力的なキャラクターは登場しなかったのです。

どこまでも現実的に、可能性を整理していくことで犯人(13番目を連れてきた人物)もそれを助けたメンバーも割り出されてしまい、探偵役の少年も単に推理を楽しんでいるだけで、あの表紙の眼にある使命感のようなものは感じられませんでした。

そもそも死んでないし

以下さらにネタバレ

13番目に至っては事故で植物状態になって、その事故の原因をつくった妹によって一緒に自殺しようと連れてこられただけです。

そして自殺の集いを主催した14歳の落ち着き払った少年サトシも、すべてを裏で操るといった超然としたキャラクターというよりは、こうした集いを何度も主催しているテクノクラートといった感じで、表紙の彼(彼女)ではありえません。

何度もいいますが、物語としての展開は秀逸です。キャラクターにも魅力がないわけではありません。ただ、あの表紙に惹かれて(しかも勝手な誤解までしている)一読者からすると、期待したものと大きく違った、とそういうことです。

詳細な推理の流れや、12人の登場人物ごとのトラウマや悩み、それぞれが事件で果たした役割などは読んだ方なら、ご存知と思いますので割愛いたしますが、この1点において、おおきに期待と外れた、というのはそういうことなのです。

なので読後感は一言

冲方さん、面白かったです。でも

watabokuさん、騙されました(笑)

というか、表紙絵だけでそれだけの物語を(誤解でしたが)想起させてしまうイラストレーターさんの力量にも脱帽です。ほんとに、これでファンになりましたね。冲方さんの方は相変わらずもちろんファンのままです。

蛇足でそれでも不思議だった点

あと、これは読んでいて、プリミティブな物語展開だけに疑問だったことを一か所だけ。

この小説では廃病院のなかで集団自殺が試みられるのですが(その病院はわりと最近廃業したので内部は結構きれい)なぜか、自販機が生きているのです。

登場人物はなんどかそこで飲み物を買ったり、前述のトリックというか、登場人物間の陽動などでも自販機が使われるのですが、廃墟の自販機がいきているのって、おかしくない?とは思いました。

工事関係者がくる、という設定かもしれませんが、それほど頻繁にくるという描写はなかったですし、そんなに人が(自販機の売り上げがたつほど人の流入が予想されるなら)くるなら、そもそも自殺する場所としてかなり不向きです。サトシ少年が病院の御曹司だったという設定をもってしても、自販機を活かしておくというのは無理があるでしょう。

その点が、表紙とは別にどうしてもひっかかりました。

まあ、でもそれは抜群の事務処理能力をほこるサトシ君がなんとかした、ということなのでしょうけれども(;^_^A

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