2018年第16回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作
ということで、買って読んでみました『オーパーツ 死を招く至宝』。帯のあおりには翻訳家の大森望さんの「シンプルで美しく、しかも本格愛にあふれた物理トリックが素晴らしい」という煽りがついて、裏を見てみると、コラムニストの香山さんというかたが「島田荘司ばりの仕掛けでインパクト充分。主役二人の掛け合いも面白く、今後の活躍が大いに期待できる」とのこと。
中身はいわゆる連作短編になっており、同じ主人公がいくつもの事件を解決していく形式です。収録作品はつぎの4つ。
- 十三髑髏の謎
- 浮遊
- 恐竜に襲われた男
- ストーンヘンジの双子
Contents
総じて、キャラクターは面白い
オーパーツ鑑定士を名乗る青年、古城深夜(こじょうしんや)とその彼と、うり二つの容貌を持ち、彼と行動をともにすることになった同級生の鳳水月(おおとりすいげつ)の二人が主人公の本作。
破天荒でいささか常識を欠きつつもオーパーツについての豊富な知識を持つ古城と、いたって一般的な常識を持ちながらも古城とそっくりな容貌をもったことからトラブルや事件に巻き込まれる不運な大学生、鳳。この二人のキャラクターがなかなか秀逸で夫婦漫才のような掛け合いは確かに読んでいて面白いモノがありました。
また、古城の姉として登場する古城まひるが、キャリアの警察官にして、恐竜オタク、というのも、いわゆるギャップ萌え、というのでしょうか。この弟にしてこの姉、という感じがして読んでいてほほえましい。「鉄拳正妻」という二つ名はちょっと変ですが(;^_^A
そういう意味では香山さんの帯のキャラクターの下りはその通りだなと思いました。
それでは、肝心の収録作について、このミス受賞作としての読みごたえはどうだったかといいますと…。
順に読後の感想をご紹介します。今回はネタバレなし。ネタバレ感想はまた改めて書こうと思います。
十三髑髏の謎
ヒントは十分に提示されており、いわゆる犯人しか知りえない情報の暴露もあるので、注意深く読めば犯人はわかると思いますが、警察が調べれば、即ばれてしまうような証拠が残っているというのはどうかなあと。でも挿入される水晶髑髏などオーパーツのうんちくは面白く読めました。
浮遊
これはオチとしてはちょっと微妙です。確かに、読んでくと、いわゆる犯人(というと語弊があるのですが)による秘密の暴露はあるので、犯行に及んだ人物やそれを利用した人物についてはわかる仕掛けなのですが、動機の部分はちょっと釈然としない。普通気がつかない?というツッコミを、読後に感じる方もいるのではないでしょうか。
恐竜に狙われた男
うーん、これはもう、まひるお姉さんが恐竜について語るそのうんちくの濃さと、普段とのギャップを楽しむサービス回だと思って読んだ方がいいように思います。殺人もあるはありますが、これはもう筋書きありきでトリックや犯人、動機などは正直「う~ん」というレベルです。この編は、まひるお姉さんと恐竜をめでる、というのが正しい楽しみ方ではないでしょうか。
ストーンヘンジの双子
すみません。これはもう、途中から推理しよう、という感覚なしで読みました。動機やトリック、どうしてそんな殺し方を!というツッコミを抱えながら、お茶でも飲みながら読むことをお勧めします。巻末に書かれている審査員評価でも最後の短編の出来はいまいち、ということが書かれていましたので、その辺は作者も審査員もわかってのことでしょう。
お勧め度
★★★☆☆
なかなか難しいところでした。このミス大賞ということで買ってみたのですが、島田荘司ばり!と言ってしまうと、怒る人いっぱいいるんじゃないかしら、と思います。
でも、キャラクターの会話などテンポよく書く力はあって、ラストも続編がありそうな終わり方をしていますから、今後もこの二人の掛け合いを読みたい、まひるお姉さんの恐竜萌えをまた読みたい、という方がいてもおかしくはないと思います。
ただ、なんでしょう。本格愛にあふれているかというと、私は『屍人荘の殺人』の方が〇〇〇は出てきたとしても本格愛にあふれていたと思います。
どうしても短編で殺人事件をやろうとすると、動機を大幅に端折ったり登場人物の造形がおざなりになったりして、粗の方が目立ってしまうような気がします。その点、万能鑑定士Qシリーズは、人が死なないミステリーということで、殺人事件にさくエネルギーを鑑定推理に注ぎ込んで、面白く読める短編を量産していて、うまいと思います。
大学生男子二人の軽妙な掛け合いが読みたい、普段はきりっとした美人刑事が恐竜について熱く語るところが読みたい、という方にはお勧めの一冊です。