ネタバレ含む 岩木一麻『がん消滅の罠』オチ予想

それでは、あらすじからまいります。こちらは文庫の裏表紙から引っ張っております。

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あらすじ(文庫版表4より)

呼吸器内科の夏目医師は生命保険会社勤務の友人からある指摘を受ける。夏目が余命半年の宣告をした肺腺がん患者が、リビングニーズ特約で生前給付金を受け取った後の生存、病巣も消え去っているという。同様の保険金支払いが続けて起きており、今回で四例目。不審に感じた夏目は同僚の羽島と調査を始める。連続する奇妙ながん消失の謎。がん治療の世界で何が起こっているのだろうかー。

まず、あらすじの補足からまいりましょう。リビングニーズ特約というのは、通常死後の支払われる死亡保険を、がんなどで余命宣告を受けた場合に生前に給付する生命保険の特約のことです。作中では、夏目医師のもとで末期がんで余命半年の宣告を受けた患者が、このリビングニーズ特約で保険金を受け取ったあと、がんが完治する、という事例が立て続けに発生します。

医学的に、そうした事例が連続する確率は16万分の1。ありえないことが現実になったことで、夏目医師は友人の羽鳥医師と真相を突き止めるべく調査を開始します。

一方で、この事件にかかわった患者が最初に診察を受けていた湾岸医療センターでは、通常の診療とは別に、富裕層や社会的に影響力のある政治家や官僚、実業家などを対象にした「がんドック」を実施。高い精度の検査による高い早期のがん発見率と転移再発した場合でも、がんの進行を最小限に留める特別なオーダーメード医療で高い評価を受けていました。

厚生労働省のキャリア官僚も柳沢昌志も同センターで、早期がんの手術を受けるも、その後の検査で転移が発覚し、毎月15万という保険外のオーダーメード治療を受けることを選択します。

夏目医師のまわりで起こる4件連続の「がん消滅」と湾岸医療センターで進む社会的上位層への特異な治療。夏目の恩師であり、湾岸医療センターの理事長である西條が、掲げる、医師にはなしえず、医師にしかなしえない「救済」とはいったい何なのか?

というところでちょうど218頁ですね。

このほか、手掛かりというか、伏線となる描写としては、

前提条件

1、冒頭に末期がんの患者のがんが消滅した「詐欺事件」が発生しており、そのトリックは、双子の片割れが末期がん患者で、そのあと、治ったといって出てきた人間は健康な姉(妹)だった。CTの画像では気が付くことができなかった。

2、湾岸医療センターの医師は、自分が何らかの「犯罪」に荷担していることを自覚している。それに対して何かしら崇高な目的、使命感を感じている。その使命感は西條の「救済」とつながっていると考えられる。

3、厚生労働官僚の柳沢の手術で、地の文でも転移の可能性はかなり低い、ということが書き連ねられており、転移を阻止する措置も万全に講じられている描写がある、しかし、執刀した医師は、転移したことを平然と受け止めている。

これを受けての仮説を考えてみました。

仮説1

まず、4人の完治した人間はそもそもが「がん」ではなかった。彼らはなんらかの方法でがんではないにもかかわらず、「がん」という診断を受けさせられ、それによって保険金が支払われるように仕組まれていた。リビングニーズ特約を受けた人たちは、社会的弱者で困窮している者たちだった。彼らはがんではないががんという診断を偽装することで、(本人たちはしらないが)リビングニーズ特約によって「救済」されていた。それを仕組んでいたのが湾岸医療センターである

仮説2

官僚らも、そもそもがんではなかった。早期発見をうたうことで、比較的初期のがんの手術をすると偽り、健康な体にメスを入れていた。そして、転移したと偽り、オーダーメード治療の称して高額な医療費を請求していた。ただし、社会的な地位のある人間は、がんになることで人生の意義を見つめなおし、これまで以上に能力を発揮する場合が多い、その意味で、彼らの人生を「救済」していた。

という予想はできるとおもいます。ただ、そうした場合、1の際に、夏目医師のところで診察を受けた人間が「がん」であったことは間違いないわけですから、彼らの存在をどう考えるかでトリックもかわってくると思われます。

考えられるのは、湾岸医療センターにいった人間は本物で、診察を受けた人間は偽物というか替え玉。診断は適正だったが、そもそもその人は保険にはいった当人ではなかった、というオチです。

一方で、厚生労働官僚は、もともとはがんだったのかもしれませんが、転移したという事実が嘘であった可能性はあります。しかし、その場合、患者が不信感をもってセカンドオピニオンを求めればおかしなことになりますし、作中には柳沢のほかに、任侠系の団体の会長で、夏目のもとでがん治療うまくいかず、湾岸センターのオーダーメード治療が成果が上がっているというモノもいますから、がんでも何でもない人間をだましている、というのは正確ではないと考えられます。その場合は、柳沢が父の思い出として回想していた、痛みの緩和ケアを使って、実際には治療していないのに、緩和ケアによって、治療がうまくいっているように見せかけている(がんと共生という意味ではかならずしもだましているわけではないのかもしれませんが)ということも考えられます。

しかし、ミスリードの可能性大

いずれにせよ、完治の4人もキャリアの男も「実際にはがんではなかった」というのが現時点での予想されるオチなのですが、これは冒頭の「がん消滅詐欺」があることを考えるとかなり安易というか、著者がこちらにミスリードしようとしているのだろうな、という方向性なので、もっと違う落ちがあるのではないかと期待しています。

帯にも二重三重に仕掛けられたトリック、とありますから、ここまでの思い込みをぶち壊してくれる「衝撃のラスト」に期待が高まります。

読み終わったら、またこちらでご紹介したいと思います。

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