河野裕「さよならの言い方なんて知らない」ネタバレ含む感想

まず、断っておくと、私は河野裕先生の生粋のファンとは言えません。河野先生のサクラダシリーズの第1巻の奥付は平成22年9月1日だし(先生最初から応援してます)、理想のヒロインはと言われれば迷うことなく相馬菫と自信をもって答えることができます(第6巻のバスルームのシーンは本当にぐっときました、先生)。

しかし、このサクラダシリーズについては実は「終わるのがもったいない」という理由で最終巻を読んでいないのです。

続く階段島シリーズは3巻まで読んだものの、階段島の設定の特殊さはいいとして、(ネタバレになるので詳しくは書けませんが)その外部との登場人物の書き分けがいまひとつしっくりこずに、その先に進めていません。しかし、これについてはあと3巻近く完結まであるので、そこまで読まずに判断するのはちょっとフェアではないでしょう。

そう考えるとサクラダシリーズ7巻、階段島6巻、都合13巻のうち、9巻しか読んでいない人間をファンというのはいかがなものか、と思うわけであります。

しかし、サクラダシリーズは青臭い設定でちょっとでもバランスを欠いたら気障なだけという主人公を見事に描き切り、ライ麦畑も村上春樹もびっくりなくらいナイーブでミントな文体で異能力の街サクラダを立ち上げる巧さには脱帽しっぱなし。

階段島だって、最初の1巻で主人公の七草の動機がわかったときには「それでこそ河野先生の主人公!」と膝を打ったものです。

どちらも突き詰めていえば、好きな女の子のために頑張っているだけなのですが、その愛し方がとても概念的というか、抽象的というか。純粋さの結晶みたいなものを大事にしている主人公の青くてひたむきな感じが、両者にはとても共通していて、だからこそ、どちらも私は大好きなのでした。

で、そんななかで、階段島をキャッチアップする間もなく出版されたのがこちらの「さよならの言い方なんて知らない」通称、架見崎シリーズ。

周りの人間の悪事を見つけ出して警告し、従わない場合は社会的な制裁を加えるネット上の組織、世界平和創造部を管理する香屋歩のもとに、架見崎運営委員会から「招待状」が届く。その招待状は、彼の友人であり、失踪したトーマが最後に送ってきたメールに添付された写真に写っていたものと同じものだった。同じく世界平和創造部の管理人である秋穂栞とともに、指定されたマンションを訪れ、そこで別世界である「架見崎」で行われるゲームへの参加を求められる。それは異能力をもった住人が領土とポイントをかけて殺しあうゲームだった。

というのがざっくりとした世界観です。

そこで香屋と最初にであった弱小チームを助けながら、自分と秋穂が生き延びるための策をめぐらせるのですが…。

さてここからはほんの少しネタバレを含む感想です。未読のかたはぜひ本書を手に取ってから進んでください。私としては一人でも多くの方が河野先生の本を新刊書店で購入していただき、先生の懐が潤うことを願っております。

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