さて、この『オーパーツ 死を招く至宝』、最大のネタバレについて触れていきたいと思います。そもそもこの小説の主人公はオーパーツ鑑定士古城深夜、彼がいくところには常に不思議なオーパーツがあり、その真贋をめぐって人は惑い殺人事件が!というたてつけで物語が進むわけですが
ツッコミどころ その1
それはこのオーパーツ鑑定士という特異な探偵キャラクターの根幹にもかかわる問題。
そうです。
実は
古城深夜、一度も鑑定してない!
そうなのです、毎回思わせぶりなオーパーツがでてくるのですが、(いや、最初の二編は確かにオーパーツっぽかったけれど、後半の2つは直接オーパーツ関係ない気もする)毎回、最終的には証拠品として没収されたり、空飛んで投げ捨てられちゃたり、そもそも鑑定とかそういうレベルのモノじゃなかったりと、
この万能鑑定士、一度も鑑定しないで終わるんです
夢は夢のままの方がロマンがあるのさ、という路線はわからなくはないのですが、真贋がはっきりしないので消化不良の側面は否定できません。前半は散々そのオーパーツについてのうんちくでページを割いているわけですから、作中に登場するオーパーツについてもぜひ真贋についてははっきりさせてほしいところでした。
そうしないことで、結果的に古城深夜探偵の「オーパーツ鑑定士」としての実力が回を追うごとによくわからなくなっていくのが避けられない。
こいつ、結局でも鑑定してないしなあ、という印象が残るばかりなのです。
ツッコミどころ その2
そして、もっともツッコミどころ満載なのがエピローグ。
なぜか、ここまで軽快に憎まれ口をたたいてきた鳳君が、なぜか、これまでの事件を振り返り、自分と古城深夜との出会いの意味について、なんだか深遠な理解をしてしまい、
俺というオーパーツの還るべき場所は、
お前の隣みたいだな
などというセリフを吐く
その必然性が、まったくわからない、
だって、あなた古城君とは金もらって代返のバイトしている間がらですよね?4編の間でずっとこいつ「死ねばいいのに」とか考えてましたよね?
それをなぜ、「俺の還る場所はお前の隣」なんて、BLの主人公のようなことをいきなりぶちかますのですか?
それこそ、本作最大の謎です。
鳳くんは、なぜかこれまでのスタンスを180度転換し、自分たちが解決してきた事件を振り返り、
それがオーパーツをめぐる鑑定士とそのドッペルゲンガー(のように似ている)たる自分(鳳青年)が出会ったことで始まった運命的な出来事のように感慨深げにとらえ、
予感に震え
「始まったものは終わらせなければならない」
と言って、
「行くよ。どうやら俺は、俺の鑑定を始めないといけないのかもしれない」
と言い出すのは一体どんな気のまよいですか?
そして、あげくに、本書は
ここからはじまる
と高らかに続編を予感させて終わります。
ちょっと待ってください。
そもそも、三つ目と四つ目の事件の構造が似ているからといって、それをオーパーツの魔性と結びつけるには無理がありますし、それを俺とお前が出会ったことによってはじまってしまった「何か」だと思って戦慄されても、私は周回遅れで息継ぎしないととてもついていけません。
百歩ゆずっても、そういう意味のことを言い始めて、だから俺とお前はこれからも一緒にいることになるんだ、出席の代返バイトが終わってもな、くらいの気障なことを「古城深夜」がいうならわかります。
しかし、「俺の還るべき場所はお前の隣」ってそんなことを言いだすようなキャラとして、これまで鳳くん、扱われてきてないじゃないですか。
いきなりのキャラクター転換についていけないです、先生。
ストーンヘンジの双子でだいぶ振り落とされつつ、なんとか食らいついたつもりでしたが、
ここからはじまる
というラストの一文を読んで
これで終わりかよ!
と突っ込んだ方、私以外にもいるのではないでしょうか。
ちょっと続編が、そういう意味では気になるのですが、『屍人荘の殺人』とはまた別の意味で、ツッコミどころのある作品でした。