シンプルな生活に必要なモノはなにか

内山節氏が書かれた『「里」という思想』という本のなかにこんな一節があります。

私たちの身近にある道具や機械のなかには、それ自身のなかに、過去から現在へと受け継がれた記憶が内蔵されているものと、されていないものがあるような気がしてならない。<中略>最近生まれた機械と、長い年月にわたって暮らしや仕事を支え続けてきたものとでは、そのもののなかに蓄積されている時間の量が違う。もうひとつ、使い捨てられていく運命にあるものと、そうでないものとの違いもあるのかもしれない。

暮らしのなかで、できるだけモノを減らしてシンプルに暮らそうとおもうと、必然的に長く使えるものに興味がわいてきます。作りがしっかりしていて、途中で壊れたりしない、さらにいえば壊れても修理ができるもの、使い続けることで、その時間が年輪のようにそのもののなかに蓄積されていくもの。価値が減じるどころか、年々使い込むほどにその価値を増していくものが、一番なのだと気づくようになります。

手帳やペンケース、デスクマット、靴などの革製品。インクを過ぎたし、使うほどにペン先が自分の手になじむ万年筆。そのなかでも特に使い込むことで味が出るブライヤーの軸へのこだわり。自分がシンプルな生活を目指しながらも、手元に残してきたモノの共通点は、こうした時間の蓄積をプラスにかえる性質があるというその一点にあったことに気づきます。

革や木といった自然から生み出されたプロダクトは、プラスチックやビニール、ポリエステルなどの人工物と違って、使い込むほどに味わいがでてきます。パソコンや家電製品は、どんどん性能のよいモノが毎年登場し、その変化を個人がとどめることも、自分の手元にある製品を手塩にかけることによって、それに伍する成長を付与することも残念ながらできません。

だからこそ、家電やPCなどは、割り切って必要最低限にとどめ、できる限り上質な革や自然の素材でできたモノを厳選して手元に置くべきだと思うのです。人生のなかで、限りある大切な時間を注ぎ、育てるためには、無駄なものを手元にたくさん置くことはできません。また、せっかくかけた時間をリセットしている時間もないのです。

いいモノを厳選して、ときには思い切り投資してもいい。いい加減なものを増やさない。時間がたてば価値を減じるようなものはできるだけ身の回りにおかない。

パソコンは数年で一審され、そのたびに記憶が断絶していくのだろう。<中略>パソコンには、便利な無言の機械という感じはしても、私はそこに物語を感じることはできない。(同前掲)

シンプルライフハックはこうした物語のあるモノ、時間を価値に変えるモノをどれだけ有効に使うかを考えることでもあると思うのです。シンプルにモノを減らしていけばいくほど、周りには物語をもったモノしか残らなくなる、このブログが整理整理といいながら、モノの話ばかりしているのはそうした理由からなのだと思うのです(という今日はモノ好きの自己弁護でした(笑))

関連記事

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク