河野裕「さよならの言い方なんて知らない」ネタバレ含む感想

では、にわかではないにしろ不完全な河野先生読者として、この「さよならの言い方なんて知らない」はどうだったか、と言いますと。

わからん!

正直わかりませんでした。というのも一つには非常に1巻が劇的ではあるものの中途半端なところで終わるためヒロインがどういうやつかがよくわからない。したがって。主人公である(と思われる)香屋が何を守ろうとしているのかがいまいちよくわからないのです。

香屋は非常に頭の切れる参謀タイプで、常識にもとらわれないトリックスター的な要素ももっています。一方の秋穂は実務家タイプで優秀でも創造性はない、いわゆるテクノクラートなタイプ。そしてトーマはカリスマ性があり、リーダーとしての素養がある。そんな三人の関係性をつなぐものとして昔好きだったアニメ「ウォーター&ビスケット」がある。その辺の設定はわかるのですが、いかにせんトーマが終盤にしか登場しないため、今一つその素顔が見えてこない。秋穂もヒロインにしては影が薄いというか、これまでの河野先生のヒロインにあった純粋性があるわけでもない。生きる意味が分かるまで死にたくはない、という香屋君の行動にもいまいち共感しずらい。

そもそもトーマの目的は何なのか、香屋はトーマのどこに惹きつけられて架見崎までやってきたのか、秋穂はなぜ彼についてきたのか。そのあたりが全然わからないまま1巻が終わってしまいました。

すべてが香屋の計算通りなのか、だとしたらトーマの目的は何なのか。正直なところ、キドやニックや紫、藤永といったサブキャラも彼らなりには盛り上がっているのですが、ポイントや能力、国、領土などのゲームルールが複雑すぎてそれを読者に説明している間に1巻が終わってしまった感じがします。

富樫先生のハンターハンターを読んでいるならそれでもいいのですが、河野先生の持ち味というか、私が勝手にファンになった部分というのは、ナイーブな男子が心のなかで大事に大事にしている純粋性の結晶のようなヒロインとのやりとりだったりするもので、その点からいうと今作はまったく新しい作風にチャレンジされたとみるべきでしょう。

とはいっても、最後に、河野作品としてちょっと期待させるところはありましたし、「リモコンを預かった」なんていうあたりはお前は浅井ケイか!と突っ込みたくなりましたけどね。

ただ、いかにせん、トーマの魅力がまだ全然わからない。この点が重大なネタバレなんですけどね。なぜ香屋がトーマのためにここまでするのか。トーマって誰なのか。むしろ最初から、作品の最初から出てきているのですが。

でも本当に設定とか細かいことはいいからもっと会話とか内面に踏み込んでほしかったなと思います。ポイントも領土も、そしてシューターとかブーストといった能力も、サクラダのときにあったような個人のパーソナリティに根差したものでないだけに、それほど魅力的にはまだ映ってこない、それよりも、トーマと香屋のやり取りにもっと紙幅を割いてほしかった…。そしてそんなことを想いながら最後のページまで読み切ったら、この作品は河端ジュン一氏との共著としてスタートし、この新潮文庫に入れるに際して単著改変したことが書かれていました。

そういうことなら半分は納得です。設定に触れた世界観も納得。ただし、それならなおのこと続巻を買うかどうかはちょっと悩みます。

先に階段島をしっかり読まないと。初回特典の堀の手紙はとてもよかったですしね。

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