ネタバレ感想『竜とそばかすの姫』きれいなおとぎ話の犠牲になるキャラと世界

さて、それではネタバレを含む感想にいきたいと思います。このサイトはネタバレブログにありがちなストーリーラインを逐次なぞるようなことはしませんが、感想を書く都合上クリティカルなネタバレを含むのでその点はご了承ください。

全自動広告

物語の犠牲になるキャラクター

正直な感想としては「大人の見るものではない」というのが率直なところです。これは半分は褒めていて、子供向けのエンターテイメントとしてはよくできていると思います。ストーリーラインも分かりやすく、少女の歌声が少年の心を癒し、仮想現実での出来事が現実の問題を解決していく流れはわかりやすく映像もきれいです。

しかし、その流れに載せようとするあまり、登場人物が時々不自然な行動をとることになります。そもそも、虐待を受けている兄弟を救うために、鈴が単身で東京にいく意味がわかりません。身の危険があることが容易に想像され、合唱チームのおば様たちがそれを許すとは思えません。父親も「その人に親切にしてあげなさい」と謎の寛容さを発揮していますが、おばさんたちに事情を聴いているなら100%止めるでしょう。自分の娘が家庭内暴力が蔓延する家庭に単身乗り込もうとしている知れば、平静でいるのはまず無理です。

そして、それまでさんざん思わせぶりなセリフを吐き続け、鈴のナイトを気取っていた忍君が同行しない理由もわからない。いや、理由がわからないと書きましたが、理由はわかります。忍君や大人がついていってしまえば「ベル(鈴)」が助けに来てくれた。仮想世界から現実世界の垣根を越えて、自分たちを助けに来てくれた竜とベルの感動の再会にならないからこそ、忍君や鈴の父親、大人たちは介入してこないのです。

これは物語の流れにキャラクターが遠慮してやるべきこと、すべきことをしないというもので、私はこれを「キャラクターのストーリーへの隷属」と呼んでます。

おそらくストーリーラインが最初にあって、美女と野獣へのオマージュもあったのでしょう。しかし、そのストーリーラインに重ねるために役者を配置して、物語の流れを組んだために、現実の世界の忍君との恋心の流れと、竜との心の交流要素がどっちつかずで感情移入しにくくなっている点もネックです。

仮想世界では竜とベルはひかれあっていくのですが、現実では虐待を受ける弟を必死でかばう兄と鈴がその後どうなるのか全然わからないし、描かれていない。忍君もラストでいきなり「解放された~」という驚きのセリフをぶち込んできますが、お前は一体どんな義務感で鈴に付きまとっていたんだと突っ込みたくなります。

また、虐待していた父親が鈴に対して、おびえるように後ずさっていったのも謎すぎます。竜=兄も鈴に立ち向かう勇気をもらった、自分もこれから立ち向かう、というのですが、そんな生易しい虐待ではなかったはずです。いきなり見ず知らずの女子高生がやってきたことで狼狽する父親ってなんなの、というのが正直なところ。おそらく、ジャスティス隊長の正体が父親で、仮想世界で屈服させられなかった少女(鈴)がいきなり目の前に現れて腰を抜かした、というが一番ありそうな解釈ですが、驚きはしてもそれで虐待をやめるなんてことがありうるでしょうか。

結末をきれいにまとめるために、虐待をやめさせるという本来はとても重いはずのテーマが「父親が腰を抜かして立ち去る」というレベルに矮小化されてしまっています。

物語の犠牲になる世界

そして、ご都合主義はさらに続きます。単身で東京に乗り込んだ鈴は、虐待されている兄弟のいる家を探し回ります。詳しい住所はわからず、手掛かりは「公共放送(提示になる自治体のチャイムのようなもの)」が複数聞こえる自治体の境目で、窓から特徴的なビルが見える場所、というこの手がかりだけ。これでは確実に家を特定することはできません。しかし、鈴がふらふらと住宅街をさまよっていると偶然弟の方が家から出てきてばったり。あまりにもご都合主義が過ぎる。

もちろん、ご都合主義が悪いとは言いません。ご都合主義には「そうそうこういう展開をまっていたんだ」という物語的なお約束を踏む意味でも、映画には欠かせない要素です。しかし、こういう偶然に偶然を重ねて、予定されているストーリーに合わせるためだけに現実の偶然を乱発されるとみている側は一気に冷めてしまう。「世界のストーリーへの隷属」です。

観ている側は気持ちよく虚構の世界を信じたいのに、こういうストーリー都合の展開を見せられると、「なぜ鈴が自宅の近くまで行けたのか」を考えてしまって、映画に没入することができなくなってしまうのです。

ストーリーは非常にわかりやすく、流れもよかったのですが、こういう細かい部分がきになって没入できない、なっとくできない。そんなところにこだわってみないで、映像美とストーリーラインをただ楽しめばいいだけとわかっていながらついつい、理屈で映画をみてしまう、そんな大人向けではない作品でした。

以上、厳しめな感想になってしまいましたが、大人としてみた場合、ということなので、子供とみる夏休み映画としては非常におすすめです。

また、高知の田舎町の描写は素晴らしかったですね。これは本当に最高です。いつか聖地巡礼してみたい。あとは主人公の親友キャラがいい味出してました。ああいう友達がいたらいいなって素直に思います。(好きな先生の趣味もいい(笑))

追記:一つ気が付いたことがありました。忍君が交差点で何を言いかけたのか、そしてなぜ鈴を見守っていたのか、という点については、おそらく彼が母親を追いかけて川に入ろうとしていた鈴の手を取って引き留めてしまったことへの罪滅ぼしだったのではないでしょうか。彼からすれば鈴の命を救ったわけですが、結果として彼女を「一人ぼっち」にしてしまった、ということが彼の中に罪悪感として根深く残ってしまったのではないかと。しかし、そうであったとしても、それを当時の鈴が知らなかった(引き留めたのが忍君だとしらなかった)とは考えにくく、それを交差点での告白の中身にしてしまうのはちょっと引っかかるところはあります。しかし、彼女を引き留めてしまったからこそ、自分がそばにいることに決めた、という心理的な動きは共感できないこともなく、この点の心理描写はちょっとすっきりしました。

cスタジオ地図:https://eiga.com/movie/94337/gallery/
関連記事

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク