「サクラダリセット」ネタバレ考察。相馬菫の正体と月が綺麗だった本当の理由

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相馬菫とは何者なのか

さて、もう一人の主人公、相馬菫とはどのような人物なのでしょうか。

彼女はストーリー開始当初は、何の能力ももたない女の子として描かれ、しかも主人公たちが高校生になる前に死亡してしまっています。

彼女は主人公である浅井ケイがリセットを使う前は生存していましたが、彼が些細な理由からリセットを使ってしまった後の世界で死亡し、一度リセットを使ってしまったケイは彼女の死を変えることができませんでした。

彼は、そのことをずっと悔やみ、サクラダの能力のなかで死者をよみがえらせる能力を探していました。彼が管理局に協力し、奉仕部として春輝とサクラダの能力に関する事件の解決に協力していたのは、相馬菫を蘇らせる能力を探していたという側面もあったと考えられます。

二人目の相馬菫

ケイは、様々な事件を解決し、いろいろな能力を知る中で、ある特定の能力を組み合わせることで相馬菫を蘇らせることに成功します。

しかし、それは相馬菫自身なのか、それとも能力によって再生されただけのスワンプマン(泥人形)なのかはわかりません。

物語はそういった葛藤を描きながら、サクラダ全体の能力を消し去ろうとする管理局の一部局員の企てと、それを阻止しようと動く浅井ケイの対立へと発展していきます。

この過程をつらつら書いていくと物語のあらすじになってしまうので、割愛しますが、この物語のもっとも重要かつ、驚きのポイントは、

それらの対立に至る流れも、それを阻止しようとする浅井ケイに協力する相馬菫(二人目)の動きも、すべては浅井ケイが春輝美空に好きだと告げるために、そういう時間を守るために一人目の相馬菫が意図したことだった、という点である。

すべては未来視の能力者だった相馬の計画

実は、相馬菫は未来視の能力を持つ、非常に強力な能力者であり、彼女は一目見た浅井ケイの未来のすべてに惹かれ、彼が幸せになる未来のために、一度は自分が死に、そして自分が相馬菫かどうかもわからない、しかし同じ能力をもった存在として再生することが必要だと理解し、それを一人で実行していたのです。

リセット後の世界で自ら命を絶つことも、それによって、彼がどれだけ傷つき、結果として自分を再生するために動くであろうことも、そしてそれに成功するだろうことも、すべてが相馬菫の計画のうちのできごとでした。

浅井ケイのためだけに相馬菫のすべては存在した

そしてそれは、彼と彼の大切にする世界を守るために絶対に必要なことであり、自身は報われないとわかっていても、それをやり抜く強さをもった少女が相馬菫なのです。

もう、何なんだ、という話です。

このサクラダリセットのヒロインは間違いなく春輝美空でしょう。浅井ケイにとってもっとも理想とする善に近い存在。シンプルで美しい無垢の象徴です。そんな春輝も少しずつ変わり、人間的な部分がでてくるのですが、それでも浅井ケイはそんな彼女が一番美しいと感じ、彼女を最も愛しています。

一方の相馬菫は、無垢であり、ある意味ではリセットされた世界を知らずに浅井ケイを盲従する春輝とは違い、未来視というほぼ全能の力を得てなお、浅井ケイの一番にはなれないことを自覚してしまっている少女です。

彼女は自分が望めば、彼に気に入られる解答を(未来視て反応を盗み見ながら)することもできることを知っていますが、それが彼にとっての幸せではないことも理解しているため、自分の存在のすべてをかけて、彼が幸せな未来、春輝美空と結ばれ、サクラダの能力を彼自身が支配する未来のために、そのすべてを捧げるのです。

なんなんだこいつは、という話です。

浅井ケイのために、すべてを計画し、自身さえ犠牲にして状況を支配し、主人公を導く。この相馬菫のやっていることは読む人が読めば「ない」と思うだろうし「青い」を通り越して「気持ち悪い」と思うでしょう。

相馬菫は報われたのか

ただ、そういう生き方というのも美しいのではないかなと私はずっと思っていました。そして最終巻、彼女は結局、報われたのかどうか。

それについての考察は、もちろん所説あると思います。作者の河野先生がどういったつもりであのラストを書かれたのはわかりません。相馬菫はどうしても1番にはなれないことは最初から知っていました。

自分が大好きな浅井ケイは必ず春輝美空を選ぶ。彼女の隣で幸せそうに笑う彼を守るために自分は死を選んだのだということもわかっています。

最初からの負けレースであり、そのレースを最後まで走り切ることが彼女が自分に課したことだったともいえるのです。

こんなヒロインがいたでしょうか。

私はこういう負けレースに挑む報いのない生き方が結構好きです。でも本当はそういう人が報われてほしいと思っています。

精いっぱいの情愛を込めて

そして、そんな相馬菫がたどり着いた結末は、ある病院のベッドの上。彼女はもう一人のヒロイン春輝美空と決着をつけ、彼女が眠る同じ病院のベッドで目覚めます。そこには自分を一番にはしてくれなかった浅井ケイがいました。

どうして、春輝のところではなく、私のところにいるかと、相馬菫は聞きます。

その理由を「君の方が早く起きそうだったから」と「月が綺麗だったから」と主人公は答えます。これがどういう意味を持つのか。

単なる気障なセリフではないと私は思っています。

「今夜は月が綺麗ですね」という言葉は、かの夏目漱石「I love you」を和訳した言葉としてあまりに有名です。

もちろん、浅井ケイにとって、一番となりにいたい相手は春輝美空に変わりはない。決して相馬菫を選ぶことはできないし、泣いていた彼女の肩を抱きしめることもこの主人公はしていません。

しかし、自分のことを深く理解し、そのすべてをもって彼の理想に答えた彼女が目覚めるときは、ヒロインではなく、彼女の傍にいた。そして「月が綺麗だ」と告げた。これが、彼にできる精いっぱいの、相馬菫への答えだったのではないでしょうか。

能力を前提にしたパートナーとして

そして、新しいサクラダで、彼女はこれからも浅井ケイの理想のために、自身の能力を使うことを約束します。それは、このシリーズの冒頭で、浅井ケイと春輝美空がそうだったような能力を前提にした関係、だけではありません。

その時の二人がそうであったように、能力を言い訳にした残酷でもやさしさのある関係。そして蘇った二人目が、相馬菫として浅井ケイの傍でいきていく大切な場所なのです。

相馬菫は報われたのか?

そのこたえはぜひ小説をよんで、読後感からご自身で判断していただければと思います。

私はこのサクラダリセットはスニーカー版初版時代から読んでいましたが、7巻が出た段階で終わるのがもったいないと思って読むのをやめていたくらい好きな小説です。コロナ騒ぎで時間があったのでついに読みました。そしてやはり好きなキャラクターのNo1は間違いなく相馬菫です。

そんなわたしにとって、この小説のラストは少し残酷でしたが、とても美しいものにみえました。

河野先生ありがとうございました。

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