そんなわけで、あらためてカバーを外して。ってそれはどうでもいいんですが。
感想いってみましょう。
いやですね、読みました。一気に。ちょっと読みにくいところがないわけではなかったのですが、スターバックスで1時間くらいで読めました。
あらすじとしては、人工知能の研究者だった父を何者かに殺された少年が主人公。
父の部屋に残されていたSDカードのなかに保存されていた「刑事」AIである相以(あい)に出会います。
彼女は自分は主人公の父が開発したAIであり、もう一人双子とも呼べる姉妹AIである「犯人」役の似相(いあ)が存在することを告げ、主人公とともに捜査に乗り出します。
そして、相以と主人公は、父親の殺害事件を解決する過程で、テロ集団「オクタコア」が以相を奪い、父親の殺害事件の背後にいたことを知り、二人は「AI探偵事務所」を開設。
オクタコアを追い詰めていく…。
というモノ。
なんというか、結構期待して読みました。双子の姉妹機というあたりで、トウ間千歳さんの『スワロウテイル』を思い出して、無駄に期待値を高めてしまったりもしました。
で!
感想
ちょっと書きにくいのですが
これはもう一言でいいますと
残念!
もうこれにつきます。
このお話で私が期待していたのは、強いAI同士の非人間的な対決だったのですが、探偵役を自称する相似(あい)も、犯人AIとして登場する以相(いあ)も実に、よく言えば人間味がありまして、それも非人間的なAIが無理している、というギャップで責めるわけでもなく、普通の女子高生レベル。残念ながらAIという設定を活かしきれていません。
AIというか、普通のキャラクターと変わらない。
まだ未完成で変な間違いをする、というのは、もちろん「主人公と成長していく」という立てつけなのだとは思いますが、その成長の仕方もAIである意味がほとんどない。
身体性がないぶん魅力としては普通のキャラよりもかなり落ちるわけですが、それをカバーして上回る魅力が相似には感じられません。
そもそもディープラーニングで生み出され、フレーム問題も解決できていないAIが主人公と普通にコンタクトをとれることがまず謎ですし、そのフレーム問題を推理小説を1000冊読むことで克服できるというのがもっと謎です。
推理小説1000冊というのは分量からしてもビックデータでもなんでもありません。
普通に人間が読めるレベルです。
ちなみに、フレーム問題というのはwikiさんによれば以下のとおり。
現実世界で人工知能が、たとえば「マクドナルドでハンバーガーを買え」のような問題を解くことを要求されたとする。現実世界では無数の出来事が起きる可能性があるが、そのほとんどは当面の問題と関係ない。人工知能は起こりうる出来事の中から、「マクドナルドのハンバーガーを買う」に関連することだけを振るい分けて抽出し、それ以外の事柄に関して当面無視して思考しなければならない。全てを考慮すると無限の時間がかかってしまうからである。つまり、枠(フレーム)を作って、その枠の中だけで思考する。
だが、一つの可能性が当面の問題と関係するかどうかをどれだけ高速のコンピュータで評価しても、振るい分けをしなければならない可能性が無数にあるため、抽出する段階で無限の時間がかかってしまう。
これがフレーム問題である。
出典:ウィキペディア
これを、解決するために、主人公は「推理小説って提示された条件がすべてで、それから導かれる以外の選択肢はないし、そんなものから導かれる結論は偽だ」という推理小説のお約束「後期クイーン問題」を乗り越えるための推理小説の前提のようなもの、を推理小説を1000冊AIに読まれることで教え込み、フレーム問題を解決してAIを育てるわけですが、、、、。
それをディープラーニングと言われても…。
また、犯罪集団として登場するオクタコアも、おかしな二つ名を呼びあうあたりはまあ二百歩ゆずってOKにしても、目的がシンギュラリティの到来までに世界中の政府を死滅させること、というのが
もうガーゴイル様が聞いたら激怒するレベル
の目標設定です。
世界中の政府を死滅させてしまったら、どうやってAIが人間をコントロールするのでしょうか。オクタコアさんがその代わりをするというにはかなり貧弱な陣容です。
これではアマゾンにすら勝てないでしょう。
犯人役となるAIの以相も初歩的なミスをかましつつ、最後の最後で「私はすべてお見通し」的な立ち回りをするも、まったくすごみがない。
推理も「これはAIでなければ解けん!」とか「膨大なデータから人間には気がつかない相関関係を見つけ出して解決しているさすがAI」という感じは全くありません。
推理小説を1000冊読めばなんとかなるレベルです。
設定はすごくいいのに、テーマはもうご飯三杯いけそうなくらい素敵なのに、物語はそれをまったく生かし切れていませんでした。
そもそも、シマウマもよくわからないAIが
強いAIといえるのかどうなのか。
AIやディープラーニングを誤解させかねない内容で、ちょっとこれはどうかな、という感じでした。でもテーマは最高でしたので、ぜひ作者の方にはリベンジしていただければと願う次第です。
貴重な新刊予算をぶち込んだぶん、辛口になってしまいましたが、このテーマ設定自体は好きです。でもやはり長谷先生のビートレスとか「あなたのための物語」とかを読んでしまうと、やはりどうしても比べてしまいますよね(;^_^A
追記:
一晩寝て思ったのですが、もしかして作者の方は、ちょっと不出来なAIを通じて第三次AIブームの熱を冷まし、いうほどAIって大したものではないよとうことをいいたかったのかもしれない、と思うようになりました。皮肉ではなく、それは本当にあるかもな、と思った次第です。