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密室の鍵は”頑丈な心張棒”というミスリード
これは本格好きの方なら、すぐ気が付いたかもしれませんね。また主人公の前島がアーチェリー部の顧問で、その教え子が彼の矢をお守りにもっている、という描写が結構細かくなされていたので、そこで気が付いた方もいたのではないでしょうか。
私は、矢の長さまで細かく書き込んでいるところで違和感を覚えて、トリックを知ってなるほどそれでか、と思いました。
そうです。密室を構成していた頑丈な心張棒は実はゆるく立てかけてあっただけ、本当に心張棒の役割をその時にしていたのは
アーチェリーの矢だったのです。
前島の矢は黒く、また長さもちょうどよかったため、薄暗い倉庫のなかでは外からはよく見えず、
「頑丈な心張棒がしてあって、扉があかない→
その心張棒は重く、
外からがっちりとはめ込む細工はできない→密室」
というミスリードをさせていたのです。
仮装を交替した教師が殺された理由
これは、トリックとしては非常にオーソドックスなモノなのですが、構成が見事で、最後までまったく気が付きませんでした。村橋と竹井という二人の教師が殺されますが、竹井については前島と間違って殺されたと認識されているため、前島がなぜ恨まれているのか?ということを読者も(警察も)考えてしまい、その線でかんがえると怪しい生徒はいても決定打は見当たらない。
それもそのはず、前島が殺されそうになっていたのは、真犯人による演出であり、
当初から前島を殺すつもりはなかったのです。
執拗に、またぎりぎりのところで前島に実害がないように配慮しながら、殺人未遂を繰り返すことで、本命である竹井を殺害したときに、「前島と間違って殺された」とみせかけ、自分に捜査の手が及ばないようにしていたというわけです。
これはとても見事の演出でした。
竹井を殺そうとした
動機については、
普通に読んでいった読者が読み取れる範疇を超えているので、
その点ではアンフェア
かもしれませんが、第一の密室の謎、そして、第二の殺人で真犯人が狙ったのがもしかして前島ではなかったのでは、ということに思い至れば、犯人(たち)を特定することは可能ですから、その点はフェアな本格推理小説といえます。
一件落着、と行かない問題のラスト
そしてラストの落とし方も賛否はあると思いますが、
なるほど、そうやってあの伏線を回収するのかと膝をうつ流れ。
少し生徒とのやり取りが冗長な印象をうけるところもありますが、それはさすがにデビュー作。★★★★ですね。