ネタバレ(3)東野圭吾『マスカレード・ホテル』

というわけで、誰が犯人なのか、ホテルの客なので、従業員なのか、それとも警察関係者なのか、そしてなぜこのホテルが犯行現場に選ばれたのか、という謎を中心に物語は進みます。

客が被る仮面と犯人が被る仮面

この小説の面白さは、犯人が誰かわからない、誰かが殺人事件を起こそうとしているのに、素知らぬ顔をしている、というストーリーの肝になる事件の構造と、ホテルにやってくる客たちが、いろいろな「仮面」を被っているという舞台そのものがもつ構造が絶妙にマッチしているところです。

この小説に登場するホテルの客たちは、何らかの嘘や隠し事、人に隠しておきたい様々な事情を抱えています。そのどれもが、ベテランのホテルマンや刑事たちからすれば「何かしら怪しい」わけですが、ホテルマンは、それを受け入れ、刑事はそれを疑い、互いにぶつかり合いながらも、刑事はホテルという場所の特殊性を徐々に理解し、ホテルマン(ヒロインなので女性ですが)は刑事という職業の因果な部分を徐々に理解し、お互いを認め合っていく、という流れです。この流れ自体は非常に好ましいのですが

肝心の事件の方が、ちょっといただけません。

以下、完全なオチですが

犯人、ここまでしなくてもよかったんじゃ

本当は、これらの事件は連続殺人事件ではないのです。最終的にホテルで犯行を企てているX4と呼ばれる犯人が、闇サイトでほかの殺人を起こそうとしている人間たちをつのり、個々の事件を一連の連続殺人に見せかけるトリックをしかけ、無関係の事件をあたかも連続殺人犯の犯行のようにみせ、そうすることで、個別の事件をいくら追っても、全部に関係のある容疑者がいない=誰も決定打を欠いて捕まらない、という構図を作り出そうとしていたのでした。

そこまではいいのですが、では真犯人の狙いはというと、その一連の殺人とは別に、ホテルの殺人と、もう一つまた別の殺人を犯すことで、自分が犯した最初の殺人と、ホテルでの殺人が絶対に結びつけられることがないように、という二重の構えをしていたというのです。

しかし、この場合、最初に犯した殺人はそもそも設定では、注射のあとが見つかってはいますが、殺人事件としては扱われていない。また、ホテルの事件も完全に逆恨みといってもいいレベルで、ほっておいてもこの二つの事件を結びつけられるとは思えません。

逆にこれだけの劇場型で警察をホテルに集中させてしまったことで、ターゲットの身近には常に警察官がおり、それが結局あだとなり、ホテルでの殺人は失敗します。

それなら、最初から、最初の殺人はそもそも事件として扱われないレベルであれば、第二の事件も同様の手口でひっそりやればいい、それがもし殺人として扱われても、最初の事件と動機などの線から容疑者に警察がたどり着く可能性は低いように思えます。

舞台設定も面白く、お客が被る仮面、犯人が被る仮面という二重構造も最高に面白いのですが、それを活かすために、結構無理な殺人事件になってないかしら、というのがこの小説を読んだ率直な感想でした。

木村拓哉さんが主演で映画化されるようなので、このあたりをどう料理されるのか、楽しみです。★★★ですね。

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